ピアノの調律師の資格はあるのでしょうか?
あまり知られていない職業なので、ピアノの調律師を目指している方は、気になりますよね。
専門学校や大学については、以前の記事でご紹介しました。
(>>ピアノ調律師になる方法は?専門学校に行ったり絶対音感やピアノが弾けないとなれない?)
独学で取得できるものなのでしょうか?
専門学校や大学に行かないと、資格は取得できないのでしょうか?
今回は、ピアノの調律師の資格はある?専門学校や大学に通って取得できる?と題してお届けします。
ピアノの調律師の資格はある?
ピアノの調律師の資格はないのですが、「ピアノ調律技能士」というのが資格にあたります。
この「ピアノ調律技能士」は、正確には資格ではなく、国家検定なのです。
実際、必ずピアノ調律技能検定に合格しなければ、調律師の仕事はできないということはありません。
私の経験談、知人に聞いた話などを織り交ぜながら、詳しく紹介していきたいと思います。
まずは、ピアノ調律技能士について具体的に説明していきましょう。
ピアノ調律技能士
ピアノ調律技能士とは、2011年9月に、厚生労働省より認可された国家検定です。
社団法人日本ピアノ調律師協会が実施している検定で、ピアノの調律に関する技能を一定基準により検定し、国として証明するものです。
検定に合格すれば、「〇級ピアノ調律技能士」と称することができます。
名刺やホームページ等への記載が可能となります。
(非合格者が技能士を称すると30万円以下の罰金に問われます。)
ただし、ピアノ調律師と名乗るには、この国家検定の合格が必須ということはありません。
国家検定とは…
労働者の技能を評価する国の技能検定制度のこと。
労働者の有する技能の程度を検定し、国が証明する国家検定制度です。
労働者の技能や知識の基準を統一し、検定が平等に実施されるために実施しています。
技能検定に合格すれば、「技能士」と名乗ることができます。
それがピアノ調律師の場合、「ピアノ調律技能士」ということです。
技能検定の認定レベル
1級~3級まで区分されています。
それぞれの試験のレベルは以下の通りです。
1級 … グランドピアノとアップライトピアノの調律、整調、修理ができること。
2級 … アップライトピアノの調律、整調、修理とグランドピアノの調律と基本的な整調、修理ができること。
3級 … アップライトピアノの基本的な調律、整調、修理ができること。
受験資格について
各級の受験資格について詳しく見ていきます。
・1級学科試験の受験資格
①7年以上の実務経験☆1を有するもの。
②ピアノ調律に関する各種養成機関☆4や専門学校、大学を卒業、普通職業訓練☆2を修了後5年以上の実務経験を有するもの。
②2級を合格したもので、合格後、2年以上の実務経験☆1を有するもの。
・1級実技試験の受験資格
①1級の技能検定において、学科試験に合格した者。☆3
・2級学科試験の受験資格
①2年以上の実務経験☆1を有するもの。
②ピアノ調律に関する各種養成機関☆4や専門学校、大学を卒業、普通職業訓練☆2を修了後1年以上の実務経験を有するもの。
③3級を合格したもの。
・2級実技試験の受験資格
①2級の学科試験に合格したもの。☆3
・3級学科試験の受験資格
①1年以上の実務経験☆1を有するもの。
②ピアノ調律に関する各種養成機関☆4や専門学校、大学を卒業、普通職業訓練☆2を修了した者。
③ピアノ調律に関する各種養成機関☆4や専門学校、大学に在学するもの、または普通職業訓練☆2を受けているもの。
☆1…実務経験とは、ピアノの調律に関する業務にあたった経験のこと。
☆2…学校卒業、訓練終了については、卒業または終了した当該科に日本ピアノ調律師協会が定めたピアノ調律に関する科目などが含まれると認めたものに限る。
該当される学校について、ピアノ調律技能検定のホームページには、詳しくは掲載されていませんでした。
おそらく、以前当サイトで紹介した各学校は、該当されているはずですので、こちらをご覧ください!
>>ピアノ調律師になる方法は?専門学校に行ったり絶対音感やピアノが弾けないとなれない?
普通職業訓練に関しては、今のところ該当する学校はなさそうです。
☆3…実技試験の実施日が、学科試験に合格した年度より、2年以内の場合に限る。(2年を経過する日に属する年度末日以内。)
例:2017年7月20日に学科試験に合格した場合、2019年3月までなら実技試験を受験できる。
2019年4月以降は、実技試験の資格が無効になる。
(2018年度と2019年度に学科試験に合格した者については、学科試験に合格した年度より、3年以内までとする。)
☆4…養成機関とは、ピアノメーカー内のピアノ調律養成機関を言い、2011年9月時点で、「カワイ音楽学園」「ヤマハピアノテクニカルアカデミー」「アポロ調律藝術学院」を指す。
◎受験資格さえ満たしていれば、どの級からでも受験可能です。
3級に合格していなくても、受験資格を突破していれば、1級を受験できます。
受験料
学科と実技、それぞれで受験料が発生します。
・学科試験
8,500円(どの級でも同額)
・実技試験
1級 … 29,500円
2級 … 26,500円(減免措置対象者は、17,500円)
3級 … 23,500円(減免措置対象者は、14,500円)
◎2017年度より下記に該当する人は減免措置を受けられるようになったようです。
・2級、3級の実技試験を受ける者
・受験都市の4月1日において、35歳未満の者
・出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第一の上覧の在留資格をもって在留する者以外の者。
1級だと、学科と実技合わせると、38,000円…。
わりとお高めですね…。
試験地
学科と実技とで、試験地が異なります。
級によっても、試験地が異なります。
学科試験実施場所
1級、2級 … 北海道、宮城県、新潟県、東京都、静岡県、愛知県、石川県、大阪府、広島県、香川県、福岡県
3級 … 北海道、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、大阪府、広島県、福岡県
学科試験は、比較的全国各地で行われています。
実技試験実施場所
1級 … 静岡県のみ
2級、3級 … 北海道、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、京都府、福岡県
実技試験は、学科試験に比べると、実施場所が少し限られてきます。
1級に関しては、静岡県のみ……。
交通費はもちろん実費ですので、遠方の方だと交通費や宿泊費を考えると、かなりの金額にになりそうです。
例えば、関西の人が1級の試験を受けるとしましょう。
静岡県は関西からだと、日帰りで行こうと思えば行ける距離ですね。
日帰りで、実技試験を受けることもできますが、お住まいが、静岡から少し距離がある場合は、できれば実技試験日前日に静岡に前乗りしたほうがいいです!
実技試験は、体力勝負です。
少しでも落ち着いて集中できるように、前日入りして、万全の態勢で試験に臨んだ方がいいですよ。
受験料や交通費と宿泊費合わせたら、10万円超えてしまいますが…。
試験で失敗して、受験料をどぶに捨てるよりはマシですよね。
試験内容
試験内容について説明していきます。
学科試験
学科試験の内容は以下の通りです。
・音楽一般(音楽基礎、音の性質)
・ピアノ概論(歴史、使用、保守管理、機構、材料)
・ピアノ調律
・ピアノ整調
・ピアノ修理
・ハイブリッドピアノのメンテナンス
学科試験の科目はどの級でも同じです。
しかし、出題される問題は、各級によって内容や範囲が異なります。
マークシート方式です。
試験時間は60分です。
問題数は50題で、真偽問題25問、多岐択一問題25問です。
配点は、真偽問題1点、多岐択一問題が3点で、100点満点です。
過去問はこちらを参照してください。
実技試験
実技試験は以下の通りです。
1級
・グランドピアノ調律 80分
・アップライトピアノ調律 80分
・グランドピアノ整調 20分
・アップライトピアノ整調 10分
・グランドピアノ修理 張弦(玉造り含む) 10分
・グランドピアノ修理 ハンマーシャンクフレンジセンターピン交換 10分
・グランドピアノ修理 ダンパーワイヤー交換 10分
グランドピアノ、アップライトピアノの調律が80分…1時間20分ですね。
グランドピアノは、丁寧に調律するなら、2時間弱はほしいです…。
試験前に少し対策練習をした方がいいと思います。
2級
・アップライトピアノ調律 90分
・グランドピアノアクションモデル整調 15分
・アップライトピアノ整調 10分
・修理 張弦(玉造含む、張弦用キッドにて) 10分
・修理 アップライトピアノセンターピン交換(木部合わせ) 10分
・修理 アップライトピアノバットスプリングとコード交換 10分
私が受けたのも数年前になるので、現在のことははっきりとわかりませんが、グランドピアノのアクションモデル整調は、どこを直していいかわからなくて、難しかった記憶があります。
ギリギリの点数で合格できましたが…(汗)
3級
・アップライトピアノ調律 100分
・アップライトピアノアクションモデル整調 15分
・修理 張弦(玉造り含まない、張弦用キッドにて) 15分
・修理 アップライトピアノバットスプリング交換 10分
3級は、私も専門学校在学中に受けましたが、学校での基準の方が厳しかったので、比較的余裕で合格できた記憶があります。
合格基準
・学科試験は、加点法で、70点以上で合格。
・実技試験は、減点法で、70点以上で合格。
(どちらも100点満点)
願書申込期間
願書は毎年だいたい同じ時期に受け付けられます。
・1級 学科と実技両方受験者、学科免除者
4月上旬~5月下旬ごろ
・2級 学科と実技両方受験者
4月上旬~5月下旬ごろ
・2級 実技 学科免除者
6月上旬~7月下旬ごろ
・3級 学科と実技両方受験者
8月上旬~9月下旬ごろ
・3級 学科免除者
10月上旬~11月下旬
2級と3級は、学科免除者は、学科と実技両方受ける人と、申込時期が異なります。
1級は、学科免除者も学科と実技両方受ける場合も同じ期間に申し込まなければいけませんので、注意してください。
年度によって、申込時期は変動するかもしれませんので、ピアノ調律技能検定のホームページで念のため確認してくださいね。
試験日程
試験日程は、級によって異なります。
・1級
学科 … 7月上旬ごろ
実技 … 10月ごろ~2月のいずれかの日(学科免除者は、7月~10月ごろ)
・2級
学科 … 7月上旬ごろ
実技 … 9月~翌年2月のいずれかの日(学科免除者同様)
・3級
学科 … 11月中旬ごろ
実技 … 翌年1月~2月のいずれかの日(学科免除者同様)
学科の日程と実技の日程が、半年以上空いてしまう可能性もあるということです。
忘れたころに、実技の日程の連絡が来ますよ。
どの日程も、土日になると思います。
合格発表日
・学科試験 … 試験終了後約3週間後
・実技試験 … 試験年度の3月末ごろ
実技試験の結果は、年度末の3月なので、9月に実技試験をした人は、半年後に結果がわかるということです。
ピアノ調律技能検定のホームページで、受験番号が公表されます。
こちらも忘れたころに公表されますよ。
専門学校や大学に通って取得できる?
ピアノ調律技能検定は、どうしたら取得できるのでしょうか?
独学でもできるのか、専門学校や大学に行かないとできないのかどうか、詳しく説明していきます。
ピアノの調律の通信教育は今のところありません。
独学で取得できるのか
ピアノの調律の勉強は、学科であれば、独学でできると思います。
実技は正直独学だけでは、限界があると思います。
学科の独学
ピアノの調律の学科は、教材などが、あまり市販で販売されていないので、一から自分でというのは限界はあるかもしれません。
学科の勉強方法は、ネットでちょこちょこ勉強できる内容があるので、そちらを参考にするのもいいかもしれません。
書籍には、下記のようなものがあるようです。
「ピアノ・マニュアル 日本版」
「ピアノ図鑑~歴史、構造、世界の銘器~ (日本語) 」
私は読んだことがありませんので、どのような内容かはわかりません。
参考になればいいのですが…。
あとは、過去問と解答が、ピアノ調律技能検定のホームページに掲載されています。
そちらを繰り返し問いて勉強する方法はいいと思います。
「ピアノ調律技能検定○×式一問一答問題集」
という問題集もあるようです。
電子書籍なので、電車に乗っているときなどに気軽に勉強できそうですね。
実技試験の独学
実技はというと、不可能に近いと思います。
整調、修理に関しては、器用で勘のいい人なら、独学でできてしまうかもしれませんが、感覚でやる作業もあるので、そう簡単にはいかないと思います。
調律は特に習得するのに、先生に教えてもらいながらでも、かなりの時間を要しますし、どの音程が正解かというのは、独学で判断がつかないのではないのかなぁと思います。
たぶん3級でも難しいです。
チューニングハンマーの操作も、間違ったやり方をすると、ピアノを痛めてしまう可能性もあるので、おすすめではありません。
ピアノ調律技能士への近道
やはり、ピアノ調律の専門学校やメーカーの学校に通って、みっちり学科と技術を習得するのが一番早いです。
専門学校やメーカーの学校についての詳細は、以前投稿した記事で紹介していますので、こちらを見てみてください。(ピアノの調律の大学は、現状ありません。)
>>ピアノ調律師になる方法は?専門学校に行ったり絶対音感やピアノが弾けないとなれない?
3級は普通に勉強して、毎日調律を練習していれば、在学中に合格できるかと思います。
1年時に3級に合格できれば、2年時に2級を受けられますので、2級は3級に比べると難易度があがりますが、努力すれば在学中に取得できる思います。
おすすめは、学校卒業後は、早めに受験することをおすすめします。
特に学科は、働きながらだと、勉強がなかなかはかどりません。
実技も、一番試験対策をしやすいのは学校です。
調律は外回りをしていれば、毎日調律するので、問題ないかと思います
が、整調や修理に関しては、試験に向けて練習した方がいいです。
これもなかなか練習する時間は、業務時間外にするしかないので、結構大変ですよ。
合格率
・1級 … 学科 約75% 実技 約30%
・2級 … 学科 約80% 実技 約35%
・3級 … 学科 約90% 実技 約40%
今までの結果を平均した数値となっています。
学科は、比較的受かりやすく、実技は難しいです。
学科に関して言えば、年度によっても内容や難易度が異なる場合がありますので、しっかり勉強をした方がいいと思います。
ピアノ調律技能検定の実態
ピアノ調律技能検定は、2011年に厚生労働省から認可された国家検定ですが、今日にいたっては、さほど浸透しているとは思えません。
聞く話によると、日本ピアノ調律師協会の役員の方が、「いずれは、各市町村の教育委員会に働きかけて、資格がないと学校調律ができないようにしたい。」と話していたようです。
しかし、今のところ、そのようなことは聞いたことがありません。
そもそも、試験問題も信頼度に欠ける内容なので、1級合格したところで、技術が優れているとはっきり言える試験内容ではないと正直思います。
例えば、1級の修理試験のダンパーワイヤーの交換。
この部品、ほとんど消耗することがないので、交換する機会なんてそうそうありません。
2級の修理試験のスプリングコードも、私自身調律の仕事を始めてから、何千台と調律していきましたが、消耗しているいまだピアノは見たことがありません。
2級や3級の整調でもそうです。
試験時は、アクションモデルでの作業です。
アクションモデルで整調するのと、実際のピアノで整調するのでは、全然やり方が違うといっても過言ではありません。
2級3級受ける人は、ピアノそのもので練習しないで、アクションモデルで整調の練習をして、試験に臨んでいるのですよ。
これだと、ピアノ調律技能士に合格したといっても、お客様のピアノで正確な整調ができないという人もいるかもしれないということです。
調律の試験に関しても、平等ではありません。
試験会場にもよりますが、例えば1級の試験は、静岡県のヤマハテクニカルアカデミー(ヤマハの調律学校)で行われています。(今後変更の可能性ありますが)
調律学校のピアノは、学校に通っている生徒が調律の練習をしているピアノなので、ピアノによってはピンが止まりにくくなっていたりします。
慣れない人が調律をすると、ピンを大きく動かしたりするため、ピンが緩くなりやすいのです。
それに、噂によると、生徒が?弦ピン交換したピアノもあるのだとか。
そのようなピアノにあたってしまったら、80分で調律なんてできやしません。
…という感じなので、ピアノ調律技能検定が導入されたのは、ピアノの調律業界にとってビッグニュースでしたが、現状はあってないようなもの。
この検定に合格していなくても、調律はできますし、素晴らしい技術の持ち主でも、1級も3級も持っていない調律師も私は知っています。
しかしながら、今後はもしかしたら、〇級以上持っていないと、学校調律やホール調律はできなくなるという可能性はゼロではありません。
なので、持っておくに越したことはないと思います。
2級ぐらいは持っておいた方が安心かもしれませんね。
まとめ
ピアノの調律師の資格は、国家検定の「ピアノ調律技能士」です。
ピアノの調律師と名乗るには、この検定に合格していなくても、名乗ることができます。
取得するには、まずピアノ調律の専門学校やメーカーの学校で勉強するのが一番の近道です。
通信教育、大学現在ははありません。
独学でピアノ調律技能士の合格は、3級でもなかなか難しいと思います。
以上、ピアノの調律師の資格はある?専門学校や大学に通って取得できる?と題してお届けしました。